行列式という名前の由来ってどこからなのよ?

はじめに

線形代数を勉強した人ならば、行列式という言葉は耳にしたことがあるはずであり、その具体的計算は試験問題になったりして大変な思いをした人もいると思う。かく言う筆者も計算ミスで苦い思い出がある。

さてこの行列式であるが、英語ではdeterminantという名前がついている。そこで”determinant”で辞書を引いてみると(Weblio)、
ejje.weblio.jp
決定力のある、とか、決定要因、とかの訳語が出てくる。なので、discriminantの訳語が「判別式」と呼ばれているぐらいならば、「決定式」ぐらいが訳語として適当かな??とか思うわけである。

それではdeterminantの訳語が「行列式」になったその由来はどこからか?

調査結果

調べてみたら、

真島 秀行,”藤澤利喜太郎の事績の功罪について : 生誕150年を記念して (数学史の研究)”、数理解析研究所講究録 、vol. 1787、pp.169-182、2012
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/172773/1/1787-14.pdf

に以下の記述があった。

”determinant” については,第一版では「デテルミナン」 としたが,第二版では 「定列式」
と訳している.なお,チャールズスミスの『代数学教科書』を訳す際 (1891 (明治 24)
年 10 月) には「行列式」とした.しかし,訳語として定着はかなりの後のこととなる.『数
學教授法: 講義筆記 藤沢利喜太郎講述』 (大日本図書,1900 年 (明治 33 年)) の中にも,
「『デテルミナン』と云う様に音訳してありますが,長くて面白くないから或人は行列式
と訳したらば善かろうと云われまして私も大分それに傾て居りますが,未だはっきり敦れ
とも決定致しませぬ」と言っている.実際,他にも多くの本で音訳だったが,林鶴一は 1909
に『行列式』という本を書いて何版も重ね,昭和の始め 藤原松三郎の『代数学』や高木
貞治の『代数学講義』によって 1930 年代になって「行列式」が定着したのではないか.

上記、第一版というのは 『Vocabulary of mathematical terms in Englishand Japanese = 数學二用ヰル僻ノ英和封鐸字書』 のそれを指す。明治の頃に藤澤氏の周辺で行列式という訳語が使われていたらしい。そして実際に訳語が広まり定着するまでには少々時間がかかり、林氏や藤原氏、そして高木氏の書籍がその普及に貢献したのでは、ということらしい。上記 ”或人”がどのような人か、それは分からない。藤澤氏の同僚の方だろうか。「行列式」という用語は案外適当に決まったのかもしれない。

おわりに

本記事では行列式という数学用語の由来を(ものすごく適当に)調査して得られた結果を示した(引用しただけ)。普段我々が日常的に使用している数学用語も、一番最初に翻訳する際には相当な苦労があったことは想像に難くない。

藤澤氏が成された仕事を解説した上記の論文は大変興味深い内容を含んでおり、今回見つけられたのは幸運であった。

余談

どこかの本で拝見した(安田先生の本だったかな?)「rational numberは”有理数”でなく”有比数”と訳すべき」という意見には同意する。

参考情報

togetter.com