わかりやすいパターン認識(第2版)の書評

本書は1998年に発売された『わかりやすいパターン認識』の改訂版であり,全体を通して統計的パターン認識の基礎が「わかりやすい」筆致でまとめられている。本書は全9章から構成されている。パターン認識の考え方(第1章)から始まり,識別関数の学習・評価・設計法(第2~4章),特徴抽出・次元削減(第5~7章)など,統計的パターン認識の分野における基礎的かつ重要な話題が精選されている。第8章では期待損失学習,第9章ではベイズ決定則と学習アルゴリズムの関係など,高度な話題にも触れられている。「統計的パターン認識ベイズ決定則を土台とする一学問」というフレーズには、改訂前から強い感銘を受けた。

改訂前後の大きな違いは,各章に数値計算・実験例や演習問題が数多く追加されていることである。例えば第2章には,パーセプトロンの学習過程が具体的な数値例とともに説明されており,第3章には3層ニューラルネットの実験例などが追加されている。演習問題では,具体的な数値例を与えて学習アルゴリズムの動作を確認させるものや,本文中の数式を具体的に導出させるものがある。詳細な解答例を載せたPDFが出版社のサポートページで公開されているのがありがたい。著者らの知見やノウハウを述べたCoffee Breakの欄にも加筆修正がされており,深層学習についても触れられている。「むすび」には,旧版以降に出版された参考書がコメントつきで紹介されており,初学者への良き指針となるだろう。

旧版は近年の深層学習・機械学習ブーム以前に発行されているが,本改訂で新たな章を割いて取り入れた話題はない。ただし深層学習を理解する上で重要な,「浅い」ニューラルネットであるパーセプトロンや3層ニューラルネット誤差逆伝播法などに多くの紙面を割いて説明しており,本書発行の主旨を考えれば欠点にはあたらない。本書で取り上げられるトピックは技術の進展を経ても陳腐化しないものばかりが精選されているのである。

パターン認識に関心を持つ各位に本書の一読を広く薦めたい。